真空ポンプとは

真空ポンプの種類

真空ポンプもポンプはポンプで、機能は空気を容器からくみ出す事です。この点では、水をくみ出すポンプと同様ですが、一般のポンプはくみ出した液体などの移動が目的であるのに、真空ポンプは、密閉容器から、いかに早く、効率よく、残り少ない空気をくみ出すかが問題になります。その為、色々な原理が使われ、機械式ポンプとは、違った発展をしてきています。また、対応できる圧力(真空度)がぞれぞれの方式で違うので、2つ以上のポンプを組み合わせる事も多く、普通のポンプとは違います。

  1. ロータリーポンプ(油回転ポンプ)
  2. 油拡散ポンプ
  3. ターボ分子ポンプ(TMP)
  4. イオンポンプ

ロータリーポンプ(油回転ポンプ)

構造

ロータリーポンプは、偏心した回転軸をもったローター、固定翼、油によって、空気をかき出す。ローターの動力ははモーター。

動作原理

ローターは周囲の壁と接しながら回転する。回転につれて、固定翼が下がる。ローターが油面に達すると、空気の逃げ場は、なくなり圧縮される。外気1気圧より高くなると、排気側から空気が出ていく。
他にも色々な構造の形式がある。

特徴

能力は圧縮比で決まる。10-1Pa程度。構造上高真空は得られない。
油が蒸発する(厳密な環境を作り出す場合には考慮が必要)
操作は容易(モーターのスイッチを入れるだけ)
大気圧から動作する

用途

スパッタ装置のポンプ
各種真空装置の一段目排気装置(大気圧からの排気)

油拡散ポンプ

構造

外壁が冷却できる容器、油、ヒーター、ジェットと呼ばれるノズル。上部に蒸発する油を冷やして集めるトラップがつく事もある。

動作原理

装置内の油を蒸発させる。蒸発した油は、ジェット中心部の煙突を上り、ノズルから下向きに勢いよく噴き出す。周囲にある気体分子は、油分子に飛ばされ、下の方に圧縮される。排気口からは、ロータリーポンプで、排気する。壁面にあたった油蒸気は冷却され、液体に戻り、底面にもどる。
トラップ(バッフル)がある場合:吸入口に達した油蒸気を液体窒素(-196°C)など冷やし、固体(液体)に戻し、チャンバーへの侵入を防ぐ。油の蒸気圧分真空度が上がる。

特徴

到達圧力 10-3~10-6 Pa
構造が簡単(可動部分がない)。安価、高耐久性。
油が蒸発する(必要に応じてトラップを使用する)
一段目排気装置が必要。トラップがなくても、本体の冷却が必要。
予備排気など通常3つあるバルブ操作が必要

用途

真空蒸着装置、電子顕微鏡など、真空応用機器

ターボ分子ポンプ(TMP)

構造

モーターによって高速回転する動翼、本体に取り付けられた固定翼。

動作原理

数万回転/分で回転するファン(動翼)で、気体分子を弾き、固定翼にあて、次の動翼へ順に送る。最終的に排気側へと気体を押しやる。動翼と固定翼の向きは逆で、分子は逆戻りしにくい。大気中で動作する換気扇や掃除機とは少し異なる。この動作原理のため、気体の種類によらない排気速度がある。

特徴

油を使用せず、清浄で、高い真空度が得られる。10-10 Pa程度
気体の種類によらない排気速度。
構造が複雑で、高額。
高速回転するので、取り付けに注意が必要。振動もある。
一段目排気装置が必要。バルブ操作が必要

用途

真空蒸着装置、スパッタ装置など、真空応用機器

(スパッタ)イオンポンプ

構造

強力な磁石、蜂の巣状の陽極(アノードアレイ)、チタンの陰極(カソード)から成り、稼働部はない。

動作原理

スパッタ現象により、チタンがイオンとなる。イオンとなったチタンは反応性が高く、気体分子と化学反応して化合物となる。(ゲッター現象)
気体分子もイオン化してカソード方向へ加速。イオンは陰極のチタンをスパッタすると共に、一部はカソード内に取り込まれてしまう。
上記の現象で気体分子がへり、真空度が上がる。

特徴

超高真空(10-10 Pa)が達成できる
可動部分がない、振動がない。
一段目排気装置が必要
寿命がある
気体がなくなると、電流が減り電圧が上がるので、超高真空が確認できる

用途

透過電子顕微鏡、ナノテクノロジー、加速器など、超高真空応用機器